小説を書くための比喩法・修辞法
修辞法は、自分の思考や感情を読み手に伝える効果的な表現方法として使われてきました。様々な用法がありますので小説を書く際に今一度、頭に入れておきましょう。
【比喩法】
(直喩)
「まるで〇〇のようだ」と直接ほかの事物へたとえる表現法。
*浅い真珠貝に水を盛ったような、気品はあるがはかない感じの湖である。(太宰治『津軽』)
(隠喩)
たとえるものを暗示的に示す用法。「〇〇のような」といった言葉は使わず直接的でなくそれとなく例える。
*彼女は天使だ。
*その笑顔は太陽だ。
(擬人法)
人間以外のものを人間に例える技法。
*エンジンが息切れしてきた。
(擬音語)
物の音やことがらの様子を音声で表す表現。
*ゴロゴロと雷が鳴りだした。
(諷喩)
本当に言いたいことがらを直接現さずにほかの事柄につなげて表現する方法。
*朱に交われば赤くなる。(周りに感化されてしまうといったことの比喩)
(提喩)
一部分で全体的な意義を現す技法。同じ言葉が何度も出てきてしまう場合、また読み手の想像力を掻き立てたい場合に使う。
*花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。(徒然草・兼好法師)花で桜を現す。
(換喩)
あるものの特徴的な部分で、そのもの本体を現す。これも同じ言葉の繰り返しを避ける場合、また読み手に特徴的な部分を印象付ける場合などに有効。
*あの銀縁眼鏡が来たのか。(身に着けていたものでその人の特徴や性格を現す)
(転喩)
同じ事実を視点を変えて、別のものに例える技法。
*幽閉されたものは、再び太陽を見ることはない(死ぬまで幽閉が続くことの比喩)
(張喩)
事実を誇張して表現する方法。
*エリスがいける屍を抱きかかえて千行の涙を注ぎしは幾度ぞ。(森鴎外・舞姫)
(引喩)
格言や詩などを引用して自分の文章を豊かにする方法。
*月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた客人なり。(松尾芭蕉・奥の細道)
小説を書く時の月の表現
小説を書く際にただ「月」と書くのでは味気ないという時にいろいろな表現を見ていきましょう。
【春の月】
朧月(おぼろづき)
春の夜のほんやりかすんで見える月。月の明かりが薄雲や靄にさえぎられてくすむ。春の季語。
【夏の月】
梅雨の月
梅雨の晴れ間に見える月。夏の世の月は涼しさを現す象徴として書かれることが多い。
【秋の月】
望月(もちづき)
中秋の名月のこと。旧暦8月15日の夜の満月。
栗名月(くりめいげつ)
旧暦9月13日の夜の月。月見に栗を供えるところからきている。
薄月(うすづき)
薄い雲にさえぎられてぼんやり見える秋の月。朧月が夏、同じような状態の秋の月が薄月。
夕月(ゆうづき)
夕暮れに出る月。
宵月(よいづき)
夕月と同じだが、夕月よりも期間が短く旧暦8月初旬の宵の間だけに見える月のことを言う。
【冬の月】
寒月(かんげつ)
凍ったように冷たい光を放つ月。
―月といえばやはり秋ですね。秋の月を現す表現は多いので秋の夜を現す場面を小説で描く場合などは月を見上げるシーンなどがよく使われます。
【その他の月の表現】
霽月(せいげつ)
くっきりした月。雨が上がった後にくすんだ雲にくっきり見える月。「雨後の月」ともいう。
田毎の月(たごとのつき)
棚田や水田に映る月影のこと。
漏月(ろうげつ)
木の間から指す月の光。
小説で使える風の表現
【春の風】
立春後、はじめて吹く暖かい南の風の事。
貝寄風(かいよせ)
冬の季節風のなごりの風。陰暦2月20日前後に吹く西の風。貝を運ぶほどの強い風を意味する。
【夏の風】
薫風(くんぷう)
夏の初め、若葉の間を吹き抜け、新緑の香りを漂わせて吹く南風。少し強い風では「青嵐(せいらん)」ともいう。
南風(はえ)
梅雨から盛夏ごろにかけて西日本に吹く南風。
山背(やませ)
山を越えて吹く風。湿った冷風で夏のはじめに三陸海岸に吹き込む北東の風。
【秋の風】
雁渡し(かりわたし)
秋の初めに吹く北風で雁が飛来するころに吹くので雁の名がつけらえている。
色なき風
紀友則の歌に由来し「吹き来れば身にもしみける秋風を色なきものと思ひけるかな」という秋の風を意味するもの。色とは、風情などを意味しており、色なきということはもの悲しさ、寂しさをお感じているという意味で使われる。
野分(のわき)
秋から初冬に吹く暴風。秋の台風。「のわけ」と読む場合もある。
【冬の風】
神渡し(かみわたし)
出雲大社にいた八百万の神々をお送りする風といわれ神無月(旧暦10月)に吹く西の風。
つむじ風
渦を巻くようにして吹き上がる強い風。
木枯らし
晩秋から初冬にかけて吹く冷風。
空っ風
関東地方に吹く乾いた寒風。
小説を書くための雪の表現、類義語
【晩冬~春の雪】
牡丹雪
ふわふわした大きな塊の雪。春を前に暖かくなると雪同士がくっつきあうため雪片が大きくなる。牡丹雪よりも小さめな雪を「細雪」。場短雪よりもさらにふわふわした雪を「餅雪」という。
淡雪
春先にうっすら積もる雪。積もっても積もっても泡のように消えていく雪。季語としては春。
ざらめ雪
春先に積もる結晶の大きな雪。一度溶けた雪が夜の冷気で再び氷の粒となるもの。
【晩冬の雪】
雪の果て
名残雪。その冬の最後に降る雪。「忘れ雪」ともいう。
【春まで溶けない雪】
フォークソングの曲名で造語ですが、現在では辞書にも載っている。春近くなり、冬を名残惜しむような雪の表現。
根雪(ねゆき)
春先まで溶けず残っている雪。
【冬の雪】
深雪(みゆき)
深く積もった雪。季節は冬。
しずり雪
木の枝から落ちる雪。
【初冬~晩冬の雪】
風花(かざはな)
晴れた日にぱらぱらと風に舞う花のように降る雪。主に儚いものの比喩として使われる。風花の恋など。
早雪(そうせつ)
例年よりも早く降る雪。
小説における雨の表現
【春の雨】
花の雨
桜の花が咲くころに降る冷え冷えとした雨。「桜雨」ともいう。桜の花が散るさまを表現するときにも使われる。
催花雨(さいかう)
春先に降る雨。花よ早く咲けと催促するところから言われるようになった。
菜種梅雨(なたねづゆ)
三月下旬から四月にかけて降る雨。菜の花の盛りのころの雨。
【夏の雨】
卯の花腐し(うのはなくたし)
梅雨入り前にしとしと降る長雨。満開の卯の花が腐るほど振るという語源。
五月雨
陰暦5~6月に降る長雨。梅雨の雨の事。
【秋の雨】
酒涙雨(さいるいう)
七夕に降る雨。再会できない悲しみの雨。
【冬の雨】
時雨(しぐれ)
晩秋から初冬にふる雨。降ったりやんだりする。その冬初の雨を「初時雨」という。時雨心地といえば、悲しい気分のことを指す。
【冬と夏の雨】
氷雨(ひさめ)
晩秋から初冬にかけて降る氷のように冷たい雨で霙交じりや雪交じりの雨も氷雨ということがある。また、夏に雷雨を伴って降る雹のことも氷雨という。
【恵みの雨】
慈雨(じう)
日照りの時に降る恵みの雨。また、「甘雨(かんう)」「瑞雨(ずいう)」とは大地を潤し、作物の成長を助ける雨をいう。
【細かい雨】
小糠雨(こぬかあめ)
霧のように細かい雨。「霧雨」に近い。
【日照り雨】
日が照っているのに降る雨。または、そのような空模倣。雨が降ったかと思うとすぐに晴れるような不安定な天気を「狐日和」ともいう。
小説で使える雲の表現、種類
小説を書く際にただ「雲」と表現するだけでは、イメージが伝わりにくいという場合に使ってみましょう。
すじ雲
繊維のような細い筋が連なった雲。種類としては、直線状のものや直線で先が巻いた形状のもの。曲線状など多数の形状がある。雲の中でもっとも高度の高いところいできる雲。気温の低い場所で発生するため、微細な氷の結晶の雲粒で出来ている。
うろこ雲(秋)
魚の鱗のような斑点が並んだ雲。鰯雲、鯖雲とも呼ばれる。秋の季語ともなっている。
おぼろ雲
うっすらと広がる灰色の雲。雲を通して太陽や月がおぼろに見える。雨の前触れともいわれている。
うね雲
田畑の畝(うね)のように波状に規則正しく連なった雲。波状雲ともいわれる。高度の低い雲で山頂や飛行機から見える雲(雲海)の多くはこの雲。
わた雲(夏)
ちぎれた白い綿がぽつぽつと浮いたような形状。晴れた夏の日に発生することが多い。
つるし雲
空につるしたような雲。強い上昇気流によってできる。
いのこ雲
「猪子雲」と書き、その名の通り猪の形をした黒色の雲。不吉なことが起きるたとえとして用いられる。暗雲、黒雲ともいうのでそちらの方が一般的。
あかね雲
朝日や夕日に照らされ茜色に染まる雲。少し沈んだ赤色。
東雲(しののめ)
時や方角を表現するときに使われ、明け方、東の空が白む頃にたなびく雲をいう。
入道雲(夏)
垂直方向にむくむく発生する雲。力づよく、躍動感を感じる人が多い。別名も多く「かなとこ雲」「雷雲」「太郎雲」などともいわれ雨や雹、雷を伴うことも多い。夏の季語。